頭皮の炎症性皮膚疾患 (日本語)
クリストフスー (Christophe HSU) – 皮膚科医. ジュネーブ、スイス 脂漏性皮膚炎(ふけ) 脂漏性皮膚炎の原因は未だ解明されておらず、分類すると2種類に分けることができる。 (i) 乳児脂漏性皮膚炎-新生児や乳児によく見られる (ii) 成人型脂漏性皮膚炎-中年成人によく見られる 脂漏性皮膚炎は、頭皮に黄色調の脂っぽい鱗屑(ふけ)が生じる。その真下の皮膚は赤みを帯びている。軽度の状態では、斑模様のように部分的に症状が出現するが、重症になると赤斑や鱗屑が広範囲に広がることもある。 症状は、眉毛部、頬部、前胸部、背部、股間部に出現することもある。 掻痒(かゆみ)を伴うこともある。 酵母菌感染症と脂漏性皮膚炎の関連性についての報告は出ているが、脂漏性皮膚炎は、真菌感染症ではない。 HIV感染症患者の中には、重度の脂漏性皮膚炎を発症するケースも多い。 治療には、弱めの殺菌消毒薬か抗真菌シャンプー、また、弱めの局所用ステロイド(ローションまたはジェル)を用いる。再発するケースが多い。 頭皮の乾癬 乾癬は、皮膚細胞のターンオーバー(表皮の成長周期)が異常に速まる炎症性皮膚疾患である。 皮膚や頭皮に大きめの鱗屑(うろこ状のかさつき)を伴った皮疹が生じる。症状は、頭皮や髪の生え際部分に斑模様のように出現し、おでこやこめかみ部分にも広がる傾向がある。皮疹は赤く(ピンク色に近い)、銀白系の鱗屑で覆われている。 痒みを伴うことは少ない。 爪が変形することもある。 頭皮の乾癬の治療には、コールタールシャンプーとコールタール軟膏、または局所用ステロイドスプレーか局所用ステロイドジェルを用いる。 接触皮膚炎と皮膚アレルギー 接触皮膚炎は、外部からの刺激によって引き起こされる炎症である。 頭皮の刺激性接触皮膚炎は、薬用シャンプーの使い過ぎや、化学物質(例、脱色剤、パーマ液)、頭皮への過度な熱的刺激などによって発症する。 髪 や頭皮に使用される様々な製品が、皮膚アレルギーの原因になっている。中でも、毛染剤は、頭皮のアレルギー性接触皮膚炎を引き起こす一番の要因である。そ のほか、ヘアローションに含まれる香料、パーマ液に使われる化学物質、シャンプーや頭皮・髪用ローションに含まれる薬剤や防腐剤などによっても誘発され る。 頭皮、髪の生え際、耳などの部分に掻痒を伴った赤斑が生じる。急性期では、水疱や浮腫が出現することもある。また、眼瞼腫脹が起こることもある。 治療に際しては、原因物質特定のために医師に相談すること。再発を防ぐための予防策に取り組むことが重要。確実な診断をするためにパッチテストを行う可能性があり。 扁平苔癬 扁平苔癬は、頭皮に斑模様のように部分的に脱毛が生じる炎症性皮膚疾患である。 扁平苔癬の原因は解明されていない。 頭皮に赤紫色の皮疹が斑模様に出現した後、それらが拡大し脱毛が生じる。皮疹が生じた部分は瘢痕が残り毛が生えない。皮疹は多くの場合痒みを伴い、口腔粘膜や爪などにも影響が見られることもある。頭皮以外の部分では、痒みを伴った青紫色の皮疹が部分的に出現する。 扁平苔癬のほとんどが、数年以内に自然治癒する。 頭皮の扁平苔癬は、瘢痕や永久脱毛を防ぐためにも早期治療が必要である。治療には、ステロイド外用薬を塗るか、ステロイドを病変内注射にて投与する。 円板状エリテマトーデス(円板状紅斑性狼瘡、DLE) 円板状エリテマトーデスは、主に皮膚を侵す自己免疫疾患である。 頭皮に斑模様のように赤斑が出現し脱毛が生じる。皮膚が薄くなり、毛細血管が浮き出て見えることもある。瘢痕性脱毛が生じ、永久に毛が生えないこともしばしばある。痒みや痛みはない。頭皮以外の部分(例、顔、耳介)もよく侵されることがあり、日光暴露によって増悪する。 確実な診断をするためには、皮膚生検などの臨床検査が必要である。 進行性の瘢痕性脱毛を防ぐためにも早期治療が不可欠である。有効な治療法はあるが、瘢痕が生じてしまった部分は治癒しにくい。 内臓(例、肺、腎臓、心臓)に病変が生じることも時折あり、その場合は全身性エリテマトーデス(SLE)と診断される。 従って、DLE患者は定期的に検査を受ける必要がある。 (慢性)円板状エリテマトーデス Discoid (Chronic) Lupus Erythematosus 円形脱毛症 円形脱毛症は、皮膚の自己免疫疾患である。 一つないし複数の脱毛斑が主に頭皮に出現する。皮膚が赤くなったり痒みを帯びるといった前兆はない。突然脱毛が生じ、数日のうちに脱毛斑が出現する。表皮下層は至って正常である。 円形脱毛症の原因は解明されていない。 患者の多くは、数ヶ月以内で自然消退する。…